夜がな夜っぴて考え事…

趣味で自由に小説書いてます

小説「今日という一日」(完結)

『今日という一日』①

‐美吉(みよし)‐ ~一日の始まり~ 折角の休みの土曜日。お昼過ぎまで寝ていようと思っていた私は突然の電話で目が覚めた。誰だろう? 幸祐(こうすけ)との約束は夕方からだったから、まさか幸祐じゃないだろう。私は枕元に置いていた携帯電話を取った。 携帯…

『今日という一日』②

‐理(さとし)‐ 今日は妻・美波子(みわこ)の誕生日。そのお祝いにと、私たちは二人で映画を観に行く約束をしていた。 私は一足先に支度を済ませ、リビングのソファに座りコーヒーを飲んでいた。庭に目をやると、木々が風に揺れている。もうそろそろ十二月にな…

『今日という一日』③

‐幸祐‐ 今日、僕は美吉との関係に区切りを付けようとしていた。約束の時間は夕方の六時。場所は仙台駅前のペデストリアンデッキで待ち合わせ。昨日声を掛けて「明日会いたい」というのは少し急だとは思ったけど、ギリギリまで悩んでいたのと、伝えると決めた…

『今日という一日』④

‐美波子‐ 今日は私の誕生日。私は夫の後ろを付いて歩いていた。駅から離れるように、二人で緩い上り坂を歩く。 「理さん」 前を行く夫に声を掛けると、夫は振り向かずに「あぁ」と返事をした。 「久しぶりですね。こうして二人でゆっくり出掛けるのは」 それ…

『今日という一日』⑤

‐佑子‐ 今日は貴耶と久しぶりのデート。私は朝から気分が良かった。デートは彼の仕事が終わってからの約束だったから、日中は時間がある。どうやって時間を潰そうかと思考を巡らせていると、美吉の顔が頭に浮かんできた。 「そうだ、美吉とお茶でもしよう」 …

『今日という一日』⑥

‐貴耶‐ 今日の俺は少し気合いが入っていた。今日はフクロウとのふれあいデーの日。いつもは檻の中にいる動物たちと触れ合ってもらうために、うちの園が企画するふれあいイベントだ。 今日はいよいよ俺が担当するフクロウたちの出番! フクロウの繁殖は、実は…

『今日という一日』⑦

‐七摘‐ 今日はお母さんとお父さんと一緒に動物園に遊びに来ていた。 あたしは友達のモモちゃんを抱えて、お母さんたちの前を歩いていた。ここへ来る途中、モモちゃんを落としてしまって大変なことになったから、もうそんなことにならないように気を付けなき…

『今日という一日』⑧・1

‐美吉‐ 今日は佑子からの電話で目が覚めてから、私は出掛ける準備をしながら幸祐のことを考えていた。 突然「明日会えないか」と幸祐から連絡があったのは昨夜のことだ。いつもだったら何日か前から予定を聞いてくるのに、明日会いたいという急な約束は幸祐…

『今日という一日』⑧・2

佑子がいなくなった分、私は席を詰めてカウンターの端で小説を読み始めた。幸祐との約束まではまだ時間がある。二杯目はダージリンティーを頼んで、午後のゆっくりと流れる時間を過ごすことにした。 本をめくる紙の音、他のお客の会話、注文を取る店員、カウ…

『今日という一日』⑧・3

店を出て駅に向かって歩き、東二番町通りから銀杏並木の下を通って、錦町公園の交差点まで来た。 信号待ちをしていると、私は誰かに見られている気配を感じた。振り向くと後ろには誰もいない。辺りを見渡しても怪しい人はいないようだ。勘違いかと思い、前を…

『今日という一日』⑧・4

仙台駅のいつもの待ち合わせ場所に着いたのは五時四十七分。約束の時間よりも早く着いたが、そこにはもうすでに幸祐の姿があった。幸祐はデッキの手すりに身を預けて、タクシーのロータリーを見下ろしていた。 「お待たせ」 後ろから声を掛けると、幸祐はゆ…

『今日という一日』⑨

‐貴耶‐ ~一日の終わり~ フクロウの脱走事件もあり、園を出た時には夜の九時を回っていた。俺は佑子の待つ仙台駅へ急いで向かった。 駅に着くと、佑子は笑顔で迎えてくれた。 「お疲れ様」 「ごめん、お待たせ」 「大変だったね、今日は」 「うん」 どうや…