夜がな夜っぴて考え事…

趣味で自由に小説書いてます

散文NEO-14『コミュニケーションツール』

私は今年の春から職場環境が変わった身である。とはいえ元の職場から離れたものの、同じ会社の所属であることには変わりないので、今でも時々前職場に顔を出すことがある。 その度によく掛けられる言葉として「向こうでも元気にやってるか」というものがある…

散文NEO-13『かみなり』

私は雷が苦手である。ゴロゴロという音もさることながら、私が最も苦手なのはあの稲光である。空がピカッと光った瞬間に先ず心臓をギュッと鷲掴みされたような感覚になり、それとほぼ同時に次は雷鳴に備えなければならないという二重苦に苛まれるからである…

散文NEO-12『変わりゆく』

今日は小林君と一緒に打ち合わせに出ていた。特に二人で行かなければいけない案件ではなかったが、小林君の経験値を上げるために打ち合わせに同行させたのだ。 我々は打ち合わせ後、休憩を取るために喫茶店に入った。 「お疲れ様。今日の打ち合わせはどうだ…

散文NEO-11『雨の日』

ここ数日、雨の日が続いていた。そんな中、今日は久しぶりに天気予報から傘マークが消えていた。 「今日は久しぶりに降水確率が0%だったな」 パソコンの画面を見ながら独り言のように呟くと、向かいの席の花崎さんが拾ってくれた。 「そうですね。空は相変…

散文NEO-10『後日談』

これは後日談である。 あの日、店の前で別れた我々三人はそれぞれの帰路についた。聞いたとことによると、環くんは魔女から教えてもらったマスターの店にまっすぐ向かったらしい。 店の扉を開けるとカウンターの中にはマスターと、すでにハトソン君の姿があ…

散文NEO-9『結論』

さて、環くんが何と言ってハトソン君に告白したかというと… 「前に告白したときは『立派な大人になったら』っていう理由で保留にされたので。今はもう大学も卒業して、この店を引き継ぐ形にはなりましたけど自分なりにこの一年頑張ってきたつもりです。なの…

散文NEO-8『長い夜』

今日はGWの初日ということもあって、ありがたいことに店内は終始賑わっていた。私はと言うと、さすがに黙って閉店時間まで待っているわけにもいかず、自ら手を上げ店の手伝いをさせてもらった。不慣れな私にバイトの子も丁寧に教えてくれ、何とか一日を乗り…

散文NEO-7『強敵』

「教えてあげようか、すずちゃんの居場所」 逆光を背に仁王立ちしているその人物はそう言い放った。 眩しさに目を細め、限られた視界であったもののその人物が誰であるかは明白であった。『ケーキ工房オーレン』の店主(魔女)、美奈子さんである。 「何故、…

散文NEO-6『失踪』

「久しぶり」 店のドアを開けるとカウンターに一人、環くんが座っていた。 環くんは体をこちらに向け会釈をした。 「すみません、今日はわざわざ朝から」 「こちらこそ、開店前にすまないね」 「いえ、店の準備は大体出来てますし、店を開けちゃうとバタバタ…

散文NEO-5『季節外れ』

今日は珍しく夜中に目が覚めた。思いの外冷え込んだのである。 季節はもう春の終わり、もうすぐ初夏と言ってもいい頃である。朝のラジオで今日は冷え込むとは言っていたが、ここまでとは。山の方では雪が降るかもとも言っていたが、これでは確かに降るかもし…

散文NEO-4『腕時計』

とある平日、荒川さんの机を見ると小さな腕時計が置いてあった。 「お、荒川さん。その時計、もしかして…」 その時計はちょっと変わった形をしていて、目を引くものがあった。 「ryu'sHMWの時計じゃないですか?」 「えぇそうです。よく分かりましたね」 「…

散文NEO-3『春』

昨日まで雨が続いていたが、今日は久しぶりに晴れた。日曜日ということもあり朝から気分が良い。ということで私はランニングに出掛けることにした。 この春の異動に伴い、私は住み慣れた街を離れ、S市から二駅ほど離れた街に引っ越していた。とはいえ初めて…

散文NEO-2『自己紹介』

私の名前は東雲中(しののめ あたる)。とある地方の、とある会社に勤める会社員である。とある部署の主任として、日々業務に勤しんでいる。年齢は、2年前の自己紹介では「四捨五入すると40歳」と書いていたが、いよいよ今年40歳を迎えることとなった。中肉…

散文NEO-1『悩み事』

私は悩んでいた。それは、「NEW」にすべきか「NEO」にすべきか、ということである。 気になることがあれば調べずには前に進めない性分の私は、もちろんこの悩みについてもインターネットに助けを求めた。 ざっくり言うと、「NEW」は英語で“新たに生まれたも…

散文52『52ヘルツの鯨』

52ヘルツで鳴く鯨がいる。その声は他の鯨に比べて遥かに高い周波数らしい。声の記録は1980年代からあるが、その姿はまだ確認されていない。分かっていることは、その周波数で鳴く鯨は世界で一個体しかいないということである。それ故に、その鯨は『世界で最…

新緑の草原

今宵は夢見月。 もしも夢で逢えたら、私の手を引いて連れていって。 目的地はまだ先よ。息が切れても止まらないで。この手を離さないで。 あなたが疲れたら私が引いてあげる。 新緑の草原はもう目の前。だから幕が下りるその時まで、私に夢を見させて。 あな…

散文51『独白』

私は人知れず、ブログで『散文』というタイトルの短編小説を書き綴ってきた。始めたのは去年の三月からである。一時的な休憩は挟んだものの、この一年間ほぼ毎週、コンスタントに書き続けられたことは私にとって良い経験となった。私の周りで起きた出来事を…

散文50『報告』

「センパイ。一つ、大事な報告が」 打ち合わせの帰り道、ハトソン君から掛けられた声に、私の体はピクリと反応してしまった。 「ほう、何だい?」 「実は、すでに課長には話してあるのですが…」 恐らく先日の課長との話も、その内容の件だったのだろう。 「…

散文49『バレンタイン』

出社して早々、ハトソン君は課長に声を掛けられ、打ち合わせ用の小部屋に入っていった。課長の声の掛け方から察するに、課長から用があるというよりも、ハトソン君が事前にアポを取っていた風であった。はて、何だろう? 仕事でミスがあったわけではないし、…

散文48『出来る男の第一歩』

ハトソン君は、仕事中にコーヒー、もしくは緑茶を飲む。普段は始業前や休憩時間に、給湯室でインスタントのものを淹れて飲んでいることが多いが、今日はちょっと違った。今日は机の上にマグボトルが置いてあったのである。 「今日は自宅から持ってきたのかい…

散文47『節分』

今年の節分は二月二日である。例年では二月三日が節分とされているが、二月二日が節分となるのは124年ぶりらしい。幼い頃は、節分で豆撒きすることを楽しみにしていたものである。 「豆撒きなんて、久しくやっていないな」 「そうですね。結婚して子供でもい…

散文46『魔女の笑顔』

私は『BAR SATIE』の前に立っていた。去年の十一月に来たっきり、約二か月ぶりである。本当はその間にも何度も来ようと思ったのだが、あの一件以来、もしかしてあの人が居るかも知れないと思うと、どうにも足が向かなかった。 今日はようやく店の前までやっ…

黄金色の海

海に臨む丘。ここから見える朝日は、ほんのひととき、水面を黄金色に染める。 なんて贅沢な景色。 輝く光を全身に浴びて、私は大きく背伸びをした。 道端の猫が気怠げにニャーと鳴く。 「おはよう」 今日も、新しい一日が始まった。

濃藍空

夜は、何もかもが深くなる。言葉でさえ、必死に掴もうと握る指先から、空に零れ落ちてゆく。 私は思う。すり抜けていく言葉を見送りながら。輝く星に目を細めながら。 そして私は、残された手のひらの言葉に希望を託す。 「これは私だ」 形のない言葉を濃藍…

散文45『雪』

会社の最寄り駅の改札を出ると、白い粒がゆらゆらと宙を舞っていた。 「雪か…」 今日は朝から冷え込んでいた。私はポケットから手を出し、手のひらに雪を乗せてみようと試みた。しかし、ポケットの中で温められていた手の温度で、雪はあっという間に解けてな…

散文44『決断』

人は一日におよそ35000回の決断をしている、という話を耳にした。信憑性は確認しようがないとして、確かに無意識のうちに人間は様々な決断をして一日を過ごしているのかも知れない。 「私もその話は聞いたことがあります」 さすがハトソン君。この手の情報は…

散文43『正月感』

私は一月一日、二日とずっと家の中で過ごしていた。一日に松原先生へ年賀状の返事を書くためにハガキを買いに行き、投函してきた以外は家から一歩も出ていない。家の中でもなんやかんや作業をしていたものの、やはり外の空気を吸わないと何となく息が詰まっ…

散文42『年賀状』

今年も無事に年が明け、新しい一年が始まった。 今年は丑年である。十二支に何故ネズミや牛、虎といった動物たちが選ばれたかという理由については、有名な物語がある。 神様がその年を代表する動物を選ぶ際に、元日の朝に一番目から十二番目までに来た動物…

散文41『願い事』

クリスマスなんて無くなってしまえばいいのに。そう思っていた頃ももうだいぶ前のことである。若い頃はクリスマスに一人でいることが寂しいと思っていたが、今では何も感じなくなってしまった。感じなくなったというか、感情をコントロール出来るようになっ…

散文40『名前の由来』

一時期はキラキラネームなるものが流行ったりもしたが、今ではそれも下火になりつつあるように思われる。それに代わって今人気なのが古風な名前のようだ。巷では“しわしわネーム”とも呼ばれているようだが、昨今の人気アニメの影響もあって、そのような名前…