夜がな夜っぴて考え事…

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散文NEO-10『後日談』

 これは後日談である。

 あの日、店の前で別れた我々三人はそれぞれの帰路についた。聞いたとことによると、環くんは魔女から教えてもらったマスターの店にまっすぐ向かったらしい。

 店の扉を開けるとカウンターの中にはマスターと、すでにハトソン君の姿があった。何故? と思ったらしいが、「世話になっている以上何か手伝わないわけにはいかない」とハトソン君のほうから働かせてもらっていたらしい。はたしてあの店の集客状況からして、店に二人も立つ必要があったかと思ったが、それは黙っておくことにした。

 店に入って早々、環くんにとっては幸か不幸かハトソン君と会うことが出来たわけだが、出会ってすぐにはさすがに、お互いに口を開かなかったらしい。二人の状況を知っているマスターが環くんを席に促し、コップ一杯の水を出したそうだが、それに手も付けず、しばらくの間沈黙の時間が続いたそうだ。マスターは完全に不干渉。まぁ、マスターらしいが、その間お客が来ることも無かったらしい。ある意味あの店で良かったのかも知れない。まさか、魔女はこうなるかも知れないことさえ見込んでマスターのところにハトソン君を…? と微塵程度は考えてしまったが、それは一瞬で風に飛ばされ消え去った。

 その沈黙を最初に破ったのは環くんであった。環くんも色々とどんな言葉で話しを切り出せばいいかと悩んだであろう。そして口から出た言葉はその苦慮の結果であったであろう。それは私が否定出来るものではないし、環くんの勇気を賞賛すべきである。しかし、「僕は一体どうすればいいですか?」とは… なかなか環くんも思い切った言葉を選んだものである。結果、全ての権限を相手に委ねてしまうとは。

 そこでマスターは思わず吹き出してしまった。それにつられたのか、ハトソン君も下を向いていたものの小さく肩を揺らしていたらしい。本来緊張感のある空間であったにもかかわらず、環くんの第一声で場の雰囲気は一気に解きほぐされた。もちろん狙って選んだ言葉ではなかったであろうが、結果オーライであったようである。狙っていたのであれば大した男であるが、環くんに限ってそれは無いであろう。

 さて、「どうすればいいか?」という問いに対してハトソン君は何と答えたのか?

 それは… 全くもって闇の中に葬られてしまったのである。

 ちなみにこの話は環くんと、マスターから伝え聞いた魔女からの話を織り交ぜてお伝えしているわけなのだが、その緊張を破った言葉の先の展開は、その場にいた三人の間で他言無用にしようという約束が結ばれたらしい。なのでこの件に関しては魔女も知らない。そのことを魔女はグチグチと言ってきたが、そんなことを私に吐露されても… という表情で私はその愚痴を聞き流した。

 

 というわけで、話の展開は分からず仕舞いとなってしまったが、結果としては、二人は正式に付き合うことになったのである。随分とこじらせた結果、ハッピーエンドに落ち着いたことは喜ばしいことである。二人を知る私としては、ようやくかといったところであるが、あの二人のことである。これからもバタバタとしそうな気配もある。無論バタバタとするのは環くんのほうであるが、その時もまた一枚噛ませてもらえれば退屈はしないであろう。

 他人の恋路で退屈云々とは失礼な話ではあるが。

 

 さてさて、まだ付き合っただけではあるが、これはお祝いでも持っていかねばなるまい。次回店に行けるのはいつになるであろうか。それまでに二人へのプレゼントを考えねば。

 おっと、思わぬ祝い事に年甲斐にもなくウキウキとしてしまった。いやはや、退屈とは失礼な表現であったな。前言撤回しよう。どうやら私自身が楽しませてもらっているようである。