夜がな夜っぴて考え事…

趣味で自由に小説書いてます

紅差し指

 化粧をするとき、ふと思い出す風景がある。それは化粧台の前に座る祖母の姿だ。

 祖母は化粧台の前に正座をして、丁寧に紅を差していた。薬指で紅をすくい、そっと唇を撫でる姿は今でも鮮明に思い出せる。

 振り向き私を見て笑う祖母は華やいで見えた。モノクロの世界に引かれた一線はとても美しかった。

 口元はその人の印象を司る。言葉を発することも出来るし、語らずとも感情を表現出来る。だから私は魂を込めて紅を差す。そして、今日も舞台に立つ。

 さぁ、行こう。強い自分、弱い自分。確固たる自信、潰れそうな心。全部、真っ赤な魂に込めて。