夜がな夜っぴて考え事…

趣味で自由に小説書いてます

散文40『名前の由来』

 一時期はキラキラネームなるものが流行ったりもしたが、今ではそれも下火になりつつあるように思われる。それに代わって今人気なのが古風な名前のようだ。巷では“しわしわネーム”とも呼ばれているようだが、昨今の人気アニメの影響もあって、そのような名前が流行ってるらしい。

「時に不躾なことを聞くが、ハトソン君の名前の由来は何なんだい?」

「はぁ、私の名前の由来ですか?」

「いやなに、先日ネロとオーレンのネーミングについての話があったものだからな」

 ハトソン君は淹れたてのお茶をズズズと一口飲み、湯呑をゆっくりと机に置いた。

「私の名前はスズメの『すず』です」

 スズメとは… 意外であった。

「なるほど、スズメの『すず』か」

 苗字はハトなのに、ややこしいな… と一瞬思ったが、ここは言わないでおこう。

「ご両親は鳥が好きとか?」

「両親というか、母親の家系がそうみたいなので」

「ほう」

「ちなみに祖母の名前はツバメ、母の名前はヒバリです。父親の姓が鳩村だったので何だかややこしいことになりましたが」

「確かに、ハトとスズメではなぁ」

 どうやら苗字と名前の件は当人もややこしいと思っているらしい。まぁ当たり前か。

「なのでスズメの『メ』を取って、『すず』になりました」

「なるほどな。『すず』なら鳥感が無くなって普通の名前っぽいし、実際そういう名前の人もいるしな」

 ハトソン君は「はい」と言って、湯呑を熱そうに持ち、息をフーフーと吹きかけた。

「それではお姉さんのカナさんは? 鳥繋がりではなさそうだが」

「姉の名前はカナリアの『カナ』です」

 なるほど、カナリアだったか… 私は感心して大きく頷いた。

「ちなみにツバメもヒバリも、カナリアも、みんなスズメ目なんです」

「へぇ、そうなのか」

「カラスやウグイスも、元を辿ればスズメ目なんです。そもそも鳥類の半分以上がスズメ目なのでもはや驚くことでもないのかも知れませんが。母はこのスズメ目の系譜を継いでいってほしいそうです」

「それはすごい命を課せられたな」

「まぁ、何の強制力もないので。実践するかどうかはその時になってみないと分かりませんが」

 そう言ってハトソン君はお茶をまた一口飲んだ。

「ところで、センパイの名前の由来は何なんですか?」

「私か? 私の名前の由来は、みんなの話題の中心になるようにと付けられたらしい」

「なるほど、それで『中(あたる)』なんですか」

「あぁ」

「それは、ご両親の願いは叶いませんでしたね」

「うるさい、それは言うな」

 それは私自身が感じているところである。

「ところで、うちの犬の名前は『メアリ』というのですが、その名前の由来が何だか分かりますか?」

 突然のクイズである。私はハトソン君からの問いに一瞬たじろいだ。ハトソン君からの問いはいつも何かを試されている感覚に陥ってしまう。

「メアリか… そんな名前の鳥は聞いたことが無いな」

 ハトソン君のことだ。わざわざクイズにしてくるということは、当たり前の答えではなさそうだが…

「ちなみに鳥ではありません」

 鳥ではないと… これは大きなヒントのようだが、むしろ絞れる範囲が無限に広がってしまった。

 私は必死に考えてみたが、なかなか答えが浮かんでこない。そもそも『メアリ』という名前は当たり前にあって、“可愛いから”や“好きなタレントの名前”程度の理由以外で付けようがないように思われるが、このクイズにおいてそのような理由はあり得ないだろう。

 そうは思いつつも、一向に答えは分からない。

「ダメだ、分からん。教えてくれ」

 私は不本意ながらも答えを乞うた。

 ハトソン君は相変わらず湯呑を熱そうに持ちながら答えた。

「私たちの残り物です」

「残り物?」

「はい。カナリアの『カナ』を取った残りの『リア』と、スズメの『すず』を取った残りの『メ』。『リア』+『メ』を逆から読んで『メアリ』です」

 なんと、これほど合点のいく答えだったとは。

「名付け親はもちろん…」

「私ですが」

 これまでの流れで、そこは鳥の名前を付けてやれよと思ったが、いや、犬に鳥の名前も変か。もう何が何だか分からん。

 そもそも、可愛いペットに姉妹の残りと称して名前を付けるセンスもなかなかのものである、と、私は改めてハトソン君の思考に感嘆したのである。