散文NEO-5『季節外れ』
今日は珍しく夜中に目が覚めた。思いの外冷え込んだのである。
季節はもう春の終わり、もうすぐ初夏と言ってもいい頃である。朝のラジオで今日は冷え込むとは言っていたが、ここまでとは。山の方では雪が降るかもとも言っていたが、これでは確かに降るかもしれない。
ベッドの中で首だけを振って時計に目をやると時刻は3時を指していた。
私はこのまま再び眠りに入ろうと試みたが、寒さもありなかなか寝付けなかった。そこでいよいよエアコンに頼ろうと私は意を決してベッドから出ることにした。
床は久しぶりに身震いするほどヒンヤリしていた。つま先立ちのままエアコンのリモコンを取りにテーブルに近づくと、カーテンの僅かな隙間から街灯の灯りが差し込んでいた。
私はエアコンの暖房のスイッチを押すと、何気なくカーテンに近づきそっと外を覗いてみた。
その瞬間、私は自分の目を疑った。そこには真っ白な世界が広がっていたのである。2ヶ月くらい前であったら何も不思議なことはなかったかも知れない。1ヶ月前でもあり得なくはなかったが、今この景色を瞬時に理解することは脳が追いつかなかった。
目の前に広がっていたのは真っ白な雪である。正にシンシンと雪が降っていた。季節外れにも程がある。まさかこんな街中にも降るとは。
異常気象ももはや異常ではなく頻繁に起こる昨今、こんなこともあるんだなと思わず受け入れてしまいそうになるが、やはりこの景色は異常であろう。これは何か良からぬことが起こる前触れなのかも知れない。
私はしばし外を眺め、ふとエアコンがゴーッと暖かい空気を吐き出し始めたことに気が付くと、おもむろにベッドに戻った。
彼からのメールに気付いたのは、朝になってからであった。
まさか、こんな事態になっていたとは、想像もしていなかったが、昨夜の雪を思い出すとあながち起こり得ないことでもなかったのかも知れない。
私は有無を言わさず、次の休みにそちらを伺うと返事を送った。私が行ったところで何が出来るわけでもないかも知れない。しかし彼は私に連絡をくれ、私は居ても立っても居られなくなったのである。
私は朝の支度をしながら、起こった事態がこれ以上悪くならないことを祈った。